大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(ワ)8537号 判決 1978年10月12日

原告 土屋博次

右訴訟代理人弁護士 小島新一

被告 山本ヌイ

右訴訟代理人弁護士 大西昭一郎

同 大熊良臣

主文

一  被告は、原告に対し、金一四万四〇一二円およびうち金三万六〇〇三円に対する昭和五二年九月二八日から支払ずみまで、うち金一〇万八、〇〇九円に対する昭和五三年六月一日から支払ずみまで、それぞれ年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの間、毎月末日限り、金三万七、七一二円およびこれに対する右各弁済期の翌日から支払ずみまでそれぞれ年一四パーセントの割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は第一、二項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金一四万四二四〇円およびうち金三万六〇六〇円に対する昭和五二年九月二八日から支払ずみまで、うち金一〇万八一八〇円に対する昭和五三年六月一日から支払ずみまで、それぞれ年一四パーセントの割合による金員を支払え。

2  主文第二項と同旨

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

1  原告は、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という。)を所有し、昭和二六年以降これを被告に賃貸していたが、賃料の支払等につき原、被告間に紛争を生じ昭和四九年七月一日、東京地方裁判所において、調停(以下本件調停という)が成立した。

2  本件調停により、原被告間において、本件土地の賃料は、昭和五一年六月一日以降、毎年六月分から改定すると定められた。

3  そして右調停条項一2(イ)によれば、当該年度(その年の六月一日から翌年五月三一日まで)の本件土地の賃料は、「地価公示番号港五―六(東京都港区赤坂二丁目五番六号)の土地を基準地とし、この公示価格の対前年度変動率を求め、これを本件土地の前年価格に乗じて当該年度の本件土地価格としたうえ、別紙算式(イ)により算出した金額(X)とする。

但し、(必要経費を除いた前年度の賃料)×(総理府統計局発行の「物価統計月報」の東京区部における消費者物価指数の当年度、前年度各四月発行号に掲載月の分の数値の上昇率)+必要経費(本年度賃料×〇、〇二+公租公課)の合計額から三万六五七六円を差引いた金額の一二分の一の計算方式で算出した金額が前記の計算方式で算出した金額を超えるときは、但書の金額をもって当年度賃料と定める。」とされている。

4  しかし右調停条項のXとは年額賃料を表わすものであるから、一二で除する必要はなく、これは明らかに条項表示上の誤記である。そこで右調停条項にもとづく当該年度の賃料(年額)の算式は、正しくは、同条項本文によると算式(ロ)、但書によると算式(ハ)となる。

二 (昭和五二年度の賃料)

1(一) 同年度の本件土地賃料算定の基礎となる数値は次のとおりである。

(1) 昭和五一年度の本件土地価格 三億五四六七万五、〇八九円

(2) 昭和五二年度の本件土地価格 右と同額

(3) 昭和五二年度の固定資産税額 七七万六、七六〇円

(4) 同………………都市計画税額 一三万六、五八〇円

(5) 必要経費を除いた昭和五一年度の本件土地賃料(年額) 一一三万四、九六〇円

(6) 東京都区部における消費者物価指数の昭和五二年四月発行号掲載月(昭和五二年二月)分の数値 一九八・六

(7) 同昭和五一年四月発行号掲載月(昭和五一年二月)分の数値 一八一・九

(二) 右の数値を前記算式(ロ)にあてると、数式(A)のとおりで、年額賃料二〇五万二、七八〇円(月額一七万一〇六五円)であり、前記算式(ハ)にあてると数式(B)のとおりで年額賃料二一五万九、三二九円(月額一七万九、九四四円)であるから、昭和五二年度の本件土地賃料(月額)は一七万九、九四四円である。

2 被告は、原告に対し、昭和五二年度中の各月に、賃料として月額一六万七、九二四円づつを支払った。

三 (昭和五三年度の賃料)

1(一) 同年度の本件土地賃料算定の基礎となる数値は次のとおりである。

(1) 必要経費を除いた昭和五二年度の賃料 一二三万九、三七六円

(2) 東京都区部における消費者物価指数の昭和五三年四月発行号掲載月(同年二月)分の数値 二〇七・四

(3) 同昭和五二年四月発行号掲載月(同年二月)分の数値 一九八・六

(4) 昭和五三年度の固定資産税額 九五万六、〇八〇円

(5) 同都市計画税額 二〇万四、八七〇円

(二) 昭和五三年度については、算式(ハ)による賃料額が算式(ロ)による賃料額を上まわることが明らかであるから、右各数値を算式(ハ)にあてると、数式(C)のとおりであり、同年度の本件土地賃料は年額二四六万七、六三六円、月額二〇万五、六三六円である。

2 原告は被告に対し、昭和五三年五月二九日右新賃料額を通知したが、被告は、原告に対し昭和五三年六月分賃料として、同月末日金一六七、九二四円を支払った。

3 被告は、右賃料額を争い、こんごも金一六七、九二四円の限度で支払を継続する意思とみられる。

四 本件調停によれば、毎月の賃料の支払期限は各月末、遅延損害金は年一四パーセントである。

五 よって、原告は被告に対し、昭和五二年六月一日から同五三年五月末日までの賃料差額合計金一四万四、二四〇円およびうち金三万六、〇六〇円に対する弁済期後である昭和五二年九月二八日から支払ずみまで、うち金一〇万八、一八〇円に対する弁済期後である昭和五三年六月一日から支払ずみまで年一四パーセントの割合による遅延損害金と、昭和五三年六月一日から同五四年五月末日まで賃料差額として毎月末日限り金三万七、七一二円およびこれに対する各弁済期の翌日から支払ずみまで年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

一1  請求原因一1、2、3の各事実は認める。

2  同一4は争う。Xは月額賃料を表示するもので調停条項には何ら誤記はない。したがって同条項本文による算式は、算式(イ)のとおりである。また同条項にいう「消費者物価指数の当年度・前年度の数値の上昇率」とは(当年度の指数―前年度の指数)を前年度の指数で除したものを意味するから、同条項但書による算式は、算式(ニ)のとおりである。

二1(一) 請求原因二1(一)の各数値のうち(5)は否認し、その余は認める。(5)は一〇六万五、〇八一円である。

(二) 請求原因二1(二)は争う。

被告主張の数値を算式(イ)にあてると、数式(E)のとおりで賃料月額一六万七、九二四円であり、算式(ニ)にあてると数式(F)のとおりで賃料月額八万一、三四七円であるから、昭和五二年度の賃料(月額)は一六万七、九二四円である。

2  請求原因二2は認める。

三1(一) 請求原因三1(一)の各数値のうち(1)は否認し、その余は争う。

(二) 請求原因三1(二)は争う。

2  請求原因三2のうち同年六月分賃料として一六万七、九二四円を同月末日に支払ったことは認め、その余は争う。

3  請求原因三3は争う。

四  請求原因四は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因一1、2、3の各事実は当事者間に争いはない。そして、《証拠省略》によれば、算式(イ)における「0.02X」は、必要経費としての管理費相当分として賃料に加算されたものであり、かつ調停成立にいたる経過の中で管理費は賃料の二パーセントを加算するのが相当であるとの前提で原被告間の交渉が行なわれていたことが認められ、《証拠省略》によれば、賃料月額を「X」と表示して賃料の算式をつくった際、管理費を漫然「0.02X」と表示して一二で除してしまったため、以後管理費は少なくとも表示上は賃料の〇・一七パーセント弱とされるに至ったことが認められる。そしてこのように管理費相当分をはじめの一二分の一に減縮するについての交渉がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、結局月額賃料を「Ⅹ」で表示した以上、管理費年額は「0.02×12X」と表示すべきを誤記したものと解するのが相当であり、したがって調停条項における算式(イ)も「X」が月額賃料であるとすれば「0.02X」とある部分は「0.02×12X」と表示すべきを誤記したのと解すべきである。したがって調停条項本文による賃料は、正しくは算式(ロ)(ただしここでの「X」は年額賃料を表示し、以下「X」の表示はすべて年額賃料の意味で用いる)によりえられる。また同条項本文が必要経費を除いた賃料を本件土地価格にスライドさせようとするのに対し、同条項但書がそれを消費者物価指数にスライドさせようとの意図のもとに採用されたことは同条項本文、但書の対照によって明らかであるから、右但書による賃料の算式は、算式(ハ)をもって正当とすべきものと判断される。

二  昭和五二年度の賃料について

請求原因二1(一)の(2)(3)(4)の各数値については当事者間に争いがないから、昭和五二年度の賃料は、同条項本文によると数式(A)のとおりで年額二〇五万二、七八〇円月額一七万一〇六五円である。また請求原因二1(一)の(1)の数値は当事者間に争いがないから、必要経費を除いた前年度(昭和五一年度)の賃料(年額)は、三億五四六七万五、〇八九円×〇・二×〇・〇一六の算式によって、一一三万四、九六〇円と認められ、請求原因二1(一)の(6)・(7)の各数値は当事者間に争いがない。したがって同条項但書による昭和五二年度の賃料は数式(B)のとおりで年額二一五万九、一〇五円月額一七万九、九二五円である。したがって但書の賃料の方が高いことは明らかであるから、昭和五二年度の本件土地賃料は月額一七万九、九二五円である。そして請求原因二2の事実は当事者間に争いがないから、被告の既払賃料と正当賃料の差額は月額一万二、〇〇一円であり、被告は昭和五二年六月一日から昭和五三年五月末日まで各月の賃料差額合計一四万四、〇一二円の支払義務があることは明らかである。

三  昭和五三年度の賃料について

必要経費を除いた昭和五二年度の賃料が一二三万九、一五九円であることは前記数式(B)により明らかであり、《証拠省略》によれば、東京都区部の消費者物価指数の昭和五三年四月発行号掲載月(同年二月)分の数値が二〇七・四、同五二年同月分の数値が一九八・六であること、昭和五三年度の本件土地の固定資産税額が九五万六、〇八〇円、同都市計画税額が二〇万四、八七〇円であることが認められるから、調停条項但書による昭和五三年度の本件土地賃料は数式(D)のとおりで、年額二四六万七、七九六円、月額二〇万五、六四九円であり、弁論の全趣旨によれば、右の金額は、同条項本文により求められる金額を上まわるものと認められる。したがって昭和五三年度の本件土地賃料は月額二〇万五、六四九円である。そして被告は原告に対し昭和五三年六月分の賃料として同月末日一六万七、九二四円を支払ったことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被告は、その後においても本件土地賃料を月額一六万七、九二四円の限度で支払う意思であることが認められ、右被告の支払額と正当賃料額との差額は月額三万七、七二五円である。

四  損害金について

《証拠省略》によれば、本件調停では、賃料の支払期限は各月末であり、これを遅延したときの損害金は年一四パーセントと定められていることが認められる。

五  結論

よって、原告の請求は、被告に対し、金一四万四、〇一二円およびうち金三万六、〇〇三円に対する昭和五二年九月二八日から支払ずみまで、うち金一〇万八、〇〇九円に対する昭和五三年六月一日から支払ずみまでそれぞれ年一四パーセントの金員の支払と、昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの間、毎月末日かぎり金三万七、七一二円およびこれに対する右各弁済期の翌日から支払ずみまでそれぞれ年一四パーセントの割合による金員の支払とを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないので棄却することとして、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林克已)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例